15 きみがため はるでて 若菜わかなつむわが衣手ころもでに ゆきりつつ 光考天皇こうこうてんのう

現代語訳

あなたのために春の野に出かけて若菜を摘む私のそでには、雪が降りかかってきます。

超訳(現代風語訳)

ずっと元気でいてほしいから、若菜摘んできた!

解説

この歌は、まだ雪が降る春の初めに、愛する人への贈り物として手ずからつんだ若草にそえられた歌です。

「あなたの健康を願って、春の若菜をつんでいる私のそでには雪が降っています」という、親しい人の健康を願う気持ちがこめられています。

当時、春になると芽吹く野草のうち、食用や薬用のものを「若菜」とよびました。新春に若菜を食べると病気や災いを祓い、その年を元気に過ごせると考えられていました。

この習慣は1月7日に「七草がゆ」を食べる風習となって現在にも伝わっています。七草がゆには、セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロという春の七草よばれる7種の野草が入っています。

裏話

この歌からは作者の光考天皇自身が若菜を摘んだように思えます。しかし、当時、若菜を摘むのは女性の仕事でした。また作者が天皇だったこともふまえると、摘むところを想像して詠んだ歌だと考えられます。

また、この歌は、1番の天智天皇てんじてんのうが詠んだ「あきの かりいおの とまをあらみ わが衣出ころもでは つゆにぬれつつ」という歌と似ています。

そのため、かるた取りのときによく間違って取る札として認知度が高い一首です。

光考天皇こうこうてんのう(830~887)

第58代天皇。仁明天皇にんみょうてんのうの第3皇子で、13番の歌を詠んだことでも知られる陽成院のあとを受けて55歳で即位しました。教養があり、人望も高かったようです。