03 足引あしびきの 山鳥やまどりの しだりながながしを ひとりかもね 柿本人麻呂かきのもとのひとまろ

現代語訳

山鳥の長くたれさがった尾のように、秋の夜は長い。この長い夜を、私は一人でさみしく寝るのでしょか。

超訳(現代風語訳)

逢いたくて 逢えなくて 長すぎる夜に光を探しては 独りたたずんでいる~♪(GLAY Way of Defference)

解説

この歌は、一人で眠る秋の夜はさびしいものだ、恋しいあなたと一緒に眠りたい、という気持ちを詠んだ歌です。

作者の柿本人麻呂は、本当は恋人と一緒に過ごしたかったけれど、その夜は離ればなれに眠るしかなかったのでしょう。一人で眠るとさびしくて、夜がいっそう長く感じられるものです。秋の静かな夜に、恋人を想って過ごす、男性の切ない気持ちが詠まれています。

そして、さみしさを強調させるために登場した「山鳥」。

山鳥はキジの仲間の鳥で、オスには長い尾があります。その尾の長さは40~90cm。山鳥の尾の長さと、夜の長さとを重ねて表現しています。

また山鳥のオスとメスは、昼間は一緒にいても、夜は別々の場所で眠ると考えられています。そのため、恋人とはなれて一人で眠るさみしさを表現するときにはよく「山鳥」という言葉が用いられました。

ちなみに山鳥は日本だけに生息する鳥で、九州、四国、本州の山に生息しています。

裏話

実は、この歌はもともと、奈良時代末期にできた日本最初の歌集「万葉集まんようしゅう」の「よみ人知らず」の歌です。

柿本人麻呂は「万葉集」の有名な歌人ですが、それがいつしか人麻呂の作と伝えられるようになりました。

柿本人麻呂かきのもとのひとまろ(?~?)

奈良時代の代表的な歌人で、皇族にささげる格調高い長歌をたくさん残しています。平安時代以降、歌の神様「歌聖かせい」として尊敬されています。詳しい経歴は不明。

しかし、一般世間からは「歌聖」だけでなく、「海難除けの神様」や「火災除けの神様」「安産の神様」として信仰の対象になっています。

「ほのぼのと 明石の浦の 朝霧に 島がくれゆく 船をしぞ思」という歌から明石に縁ができ、柿本人麻呂をまつる「人丸神社ひとまるじんじゃ」が兵庫県の明石市にあります。

そして、「人丸」→「ひとまる」→「火、とまる」から火災除けの、「人丸」→「ひとまる」→「人、産まる」から安産の神様として信仰されています。