04 田子たごうらに 打出うちいでてみれば 白妙しろたえふじの高嶺たかねに ゆきりつつ 山部赤人やまべのあかひと

現代語訳

田子の浦にたたずみ遠くを眺めると、真っ白な富士山の高嶺に、今も雪は降り続いている…

超訳(現代風語訳)

雪の富士山って映えるよね。

解説

この歌は、冬に雪がつもる富士山を、田子の浦から眺めて詠んだ歌です。冬の海辺から見える富士山は綺麗だな、真っ白な雪が山頂に降っているよ…という気持ちでしょうか。

「白妙」とは、木の皮の繊維などで織った布ですが、「白」という意味にもなり、「白妙の」となると、枕詞まくらことばになります。

枕詞とは、ある言葉をみちびくために置かれる、飾りの言葉のことです。後ろに続く言葉の印象を強めたり、音のひびきを整えたりする働きがあります。

例えば、「雪・雲・衣・そで」といった言葉を使いたいときは、枕詞である「白妙の」を上につけることで、歌の調子を整えています。

いわば「白妙の」と「衣」はワンセット。枕詞と枕詞に続く言葉の組み合わせはほとんど決まっていますが、必ずしも意味のつながりがあるわけではありません。

裏話

「田子の浦」は、静岡県にある駿河湾するがわん付近の海岸のことです。昔から富士山を眺める場所として有名で、作者の山部赤人はこの場所を訪れたとき、遠くに見えた冬の富士山の景色に感動してこの歌を詠んだそうですが…

実は、田子の浦から富士山の山頂を眺めても、雪が降っているかどうかまではわからないそうです。どうしてかというと、田子の浦と富士山は離れた場所にあるからで…

山部赤人は富士山に雪がしんしんと降り積もる様子を想像して、この歌を詠んだのではないかといわれています。

ちなみに、平安時代の和歌や物語にたびたび描かれた富士山。昔の人々は日本一高くそびえる富士山を神の住む山と考えて信仰していました。神秘的な姿が神々しく感じられた富士山は、都では見られないめずらしいい景色だったようです。

山部赤人やまべのあかひと(?~?)

奈良時代初期の代表的な歌人。三十六歌仙さんじゅうろっかせんのひとりで、宮中に仕えました。

山部赤人も柿本人麻呂と並び称される万葉歌人ですが、山部赤人は自然の美しさを物静かに、清らかに詠いました。