05 奥山おくやまに 紅葉もみじふみけ なく鹿しかこえきくときぞ あきかなしき 猿丸大夫さるまるたいふ

現代語訳

山奥で、紅葉をふみわけて鳴く鹿の声を聞くとき、秋は悲しいものだと身にしみて感じられます。

超訳(現代風語訳)

鹿の鳴き声を聞いたら「秋だなぁ…」って思う。

解説

この歌は、秋の終わりに、山奥で鹿の鳴き声を聞いて詠んだ歌です。

人里離れた山奥で、紅葉がつもる地面を歩きながら鹿が鳴いています。鹿が紅葉をふむカサカサという足音や、切ない鳴き声を聞いた作者は、そこに秋のさびしさを感じたのではないでしょうか。

そしてこの歌にはもうひとつ隠れた意味があります。それは歌に登場している「鹿」がポイントです。

オスの鹿は秋の終わりになるとメスの鹿を呼んで鳴く習性があります。この歌では、鹿の悲しげな鳴き声に、遠く離れた恋人を想う男性の気持ちを重ねあわせて、「あなたを恋しく想っている私と同じように、きっと鹿もさびしいのだろう」という気持ちを表現しているのです。

裏話

作者の猿丸大夫は三十六歌仙さんじゅうろっかせんにも選ばれた歌の名人ですが、実際は、本当に実在していたかもわからない謎の人物です。

しかも、猿丸大夫が作ったと断言できる歌は一首ないとか…

この歌は平安時代前期にできた和歌集「古今和歌集こきんわかしゅう」に、「よみ人知らず」の歌としておさめられています。

猿丸大夫さるまるたいふ(?~?)

三十六歌仙のひとり。奈良時代ごろの伝説的な歌人で、本当に実在していたかどうかも分かっていない、謎の人物です。