09 はないろは うつりにけりな いたらに身世みよにふる ながめせしまに 小野小町おののこまち

現代語訳

何日も雨がふっているあいだに、桜の花はすっかり色あせてしまいました。そしてもの思いにふけっているあいだに、私の美しさもむなしく衰えてしまいました。

超訳(現代風語訳)

老けちゃった。ぴえん。

解説

この歌は、春の雨に打たれる桜を眺めながら詠んだ歌で、美しい花が色あせる様子と自身の容姿が衰える様子を表現した歌です。

作者の小野小町おののこまちは一流の歌人であるとともに、たいへん美しい女性として有名でした。(今でも美人の代名詞として「小町」という言葉が使われていますね)

しかし、どんなに美しい女性でも、歳をとると衰えがあらわれます。色あせていく桜の様子に、自分の老いを重ね合わせ、時の移ろいの切なさが込められています。

そしてこの歌は、伝統の「掛詞かけことば」を使った、技巧をこらした歌でもあります。

掛詞とは、ひとつの言葉でふたつ以上の意味を示す方法です。これは言葉遊びの一種で、現在でいう「だじゃれ」のようなもの。

掛詞には歌の意味や内容に奥行きを与えて、表現の幅を広げる効果があります。

この歌には掛詞は2つあります。

ひとつめは「ふる」。

「ふる」には、「(雨が)降る」と「(時を)る」の2つの意味が。

ふたつめは「ながめ」。

「ながめ」には、「長雨ながあめ」と「眺め」の2つの意味があり、さらに「眺め」という意味のなかに、「見る」と「物思いにふける」という意味も含まれています。

そして掛詞ではないですが、「花の色」には、「女性の容姿」と「桜の花」と、2つの意味が込められています。

小野小町は技法をふんだんに使いながら、昔から変わらない美しさ(若さ)と衰えについて、詠いあげました。

裏話

作者の小野小町のはっきりとした人生はわかっていません。王朝初期、9世紀中ごろの人ではないかといわれています。

昔は皇族関係の女性でないかぎり、一般女性の正確な生没年、本名などの詳細は残されませんでした。

そのため、小野小町は晩年、おちぶれて東国とうごくを放浪した、朽ち果てた小野小町のどくろがポツンと荒野に転がっていた…などさまざまな伝説が残っています。

小野小町おののこまち(?~?)

平安時時代初期の歌の名人「六歌仙ろっかせん」のひとりであり、「三十六歌仙さんじゅうろっかせん」のひとりでもあります。絶世の美女としても有名ですが、どんな人生を送ったのか詳細はわかっていません。